カラーコンパスMF

はじめに

カラーコンパスMFは静岡のATシステムが開発して、秋月無線でも販売されているUSB接続分光器で、同社のカラーコンパスPCFの後継機種になります。秋月無線から購入したカラーコンパスPCFはメーカーでMFへのバージョンアップ(有料)を行ってくれます(ただし、バージョンによるので詳細はメーカーに問い合せてください。)。MFはPCFと比べると、ソフトの使い勝手も大きく向上しており、また、近赤外カットフィルターの装着や感度補正なども行われているので、価値のあるバージョンアップになっています。

カラーコンパスMFは分光素子としては浜松ホトニクスのマイクロ分光ユニットC12880MAを使った製品です。浜松ホトニクスの分光ユニットを使用した製品には、このWebでも紹介している楢ノ木技研さんのezSpectraもあります。ezSpectraの方は分光ユニットとしてC12666MAを使用しています。浜松ホトニクスのカタログを見ると、C12666MAの方は高ダイナミックレンジ、C12880MAは高感度と記されています。実際に使った感じでは、同じ光源に対して、カラーコンパスの方が2桁程度短い測定時間で対応出来る一方で、単発測定ではezSpectraの方が信号が安定しているようです。

基本性能

本体は約5cm×3.5cmで厚みは2cm程度のプラスチックの箱で、ディテクターの前に3mmのカバーが掛かっています。本体の真中から下には固定用の二つのねじ穴があり、これを使って、何かに取り付けることが出来ます。カバーはM2.6で止めてあり、カバーを外すとC12880MAが顔を出します。カバーにあいた穴は直径3mmで穴の縁をかすめて斜めに入射する光の角度は約20度でNAは約0.35になります。このため、窓の部分に拡散板を置けば、検出ユニットのNAと割とマッチングのよい入射状態となります。

カラーコンパスMF下のねじ穴は2.5cm間隔

 

分光器としての基本性能はC12880MAにより定まっています。ここでは、スペックを細かく示しませんので、必要な方は浜松ホトニクスのWebでC12880MAのデータを御確認下さい。C12880MAとC12666MAを比べると、C12880MAの方がピクセル数が多く、長波長まで感度領域が伸びています。また、内部増幅率が高く感度が上がっているようです。

セットアップ

ソフトウエアとドライバーはATシステムのWebからダウンロード出来ます。ドライバーはWinXP、7、8、10用が用意されています。また、アンドロイド用のソフトも公開されています。 Windows用のソフトは、特にインストールすることなく、そのまま起動します。

測定

測定用ソフトウエアを起動し、メイン画面が現れたら、右上の検出を押して接続した本体を認識させます。検出されれば、その下に接続したカラーコンパスの個体番号が表示され、ボタンは「解除」に変ります。使っているコンピュータに複数のカラーコンパスを取付けている場合には、複数の表示がされるようですが、確認はしていません。

計測方法の「光源」は光源からの光の測定に用います。「反射」と「透過」は、いずれも参照信号からの相対値が表示されます。表示の縦軸は、信号強度が最大値4000、相対値は100で固定されているようです。

光源モード

露光時間は、図では単位が表示されていませんが、マイクロ秒です。2000は2000マイクロ秒=2ミリ秒ですので、128回の積算をしても、ほとんど気になりません。

記録保存にチェックを入れると、測定データをとりあえずはコンピュータのメモリに格納するようになります。測定のテスト時にチェックが入っていると、不必要なデータがたまっていくので、調整中は外しておいた方がよいと思います。

計測間隔のチェックが入っていないと、連続計測になります。チェックを入れると、指定した間隔でのチェックとなりますので、溶液の色変化を一定時間で調べたい場合などは便利だと思います。

波長感度補正をチェックすると、内部データを使っての信号強度補正が行われます。補正をしてしまうと、それぞれの波長の検出器の出力レベルが分らなくなってしまうので、調整時には外しておいた方がよいでしょう。

次の図に波長感度補正ありでそくていした豆電球のスペクトルを示します。

波長校正あり

白熱電球らしく、近赤外に向って強度が増加し、長波長端の急な落込みの手前でほぼフルスケールになっているので、これ以上に露光時間は長く出来そうにありません。ところが、この状態で波長感度補正を外してみると、スペクトルが大きく変化します。

波長補正なし

短波長側は似ていますが、こちらでは、650nmあたりが極大となって、先ほど極大だった800nmを超えたあたりは値が低くなっています。また最大値も1200程度で全く飽和していません。電球などのスペクトル形状を見たいのでしたら、波長感度補正が必要ですが、透過スペクトル測定を行うことを考えると、ベースは、可能な限り強度を取っておきたいので、波長感度補正をせずに、それで飽和しない程度に露光時間を伸すべきです。というわけで、露光時間を延してみました。

露光時間延長

先ほどのものに比べて露光時間が3倍程度で全体の強度も上がっています。これは、特に短波長側でありがたいところで、吸収測定のS/Nが上げられるだろうと思います。

透過(および反射)測定では、参照光源を測定した後に、測定対象の測定となりますが、表示としては、その時の検出強度とわり算の結果が同時に出てきます。このため、参照光源のボタンを押した後には、次のように、元のスペクトルとわり算の結果が同時に表示されます。

透過ベース

これは、結構ありがたいところで、ノイズの多寡から、どの程度の波長まで取れそうかが見えます。この状態で手元にあったフィルターを入れてみました。

フィルター透過

可視域でほぼ満足のいくスペクトルとなっています。

楢ノ木技研のezSpectra 815Vでは、透過測定では参照光強度の弱い部分は測定されませんが、こちらでは、参照信号の強度にかかわらず、全領域の結果が出てきます。その分だけ、測定者の方が、測定が正しく行われているかを判断しなければならないのですが、測定領域全体を使えることと、補正無しの信号から、検出器の実際の飽和値を見ながら強度設定が出来るので、ので、個人的には、こちらの方が仕様としてありがたいです。

なお、カラーコンパスMFではダークノイズは自動補正されます。ダークノイズの補正をどのようにしているかは公開されていませんが、印象としては、ダークノイズの温度依存データを本体が持っていて、その時の測定温度に応じた値を使っているようです。

カラーコンパスのもう一つのメリットは小さくて軽いことで、このため、顕微鏡の鏡筒に簡単に括り付けられます。次の写真は顕微鏡のCマウント鏡筒に括り付けたところですが、これで、とりあえずの顕微分光は可能でした。

 

顕微鏡への取付け絵

改訂履歴

 

2018年11月 初版 準備
2019年6月 初版に手をいれて公開