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科学の学校 にじ

概要

 科学の学校「にじ」は1947年10月にに実業之日本から創刊され、翌1948年11/12月号をもって廃刊となった子ども向けの科学雑誌である。継続雑誌は「」であるが、それは3号発行されたのみで、1949年3月号を最後に廃刊となっている。編集後記や、読者の投稿記事からは対象読者は小学校高学年から中学生であったと思われる。
 戦後のこの時期には、第2次世界大戦の敗戦が科学力の差によるという反省もあったためか、多くの科学雑誌が創刊されたようである。その中で「にじ」を取り上げるのは、編集人である藤田圭雄の志に共鳴するところがあるためである。

 編集人の藤田は1946年春に実業之日本から創刊された子ども向け文学雑誌「赤とんぼ」にも携わっていた。赤とんぼは大正〜昭和初期の児童向け雑誌「赤い鳥」を念頭においた雑誌で、大仏次郎、川端康成、岸田国士、野上弥生子といった錚錚たる文化人が関わっていた。しかし、藤田は戦後の日本を作り上げていく為には、文学的なことと同時に科学的な事も必要と考え、赤とんぼの創刊の翌年に兄弟雑誌として「にじ」を創刊した。「赤とんぼ」では児童の作品の投稿もあったようだけれども、「にじ」でも同様に児童による研究発表が初期から計画されており、単純に科学知識を伝えるのではなく、科学する心や科学のやり方を伝えると言う方向性があった。

 赤とんぼもそうであるけれども、藤田は子供達に甘ったるいものを与えるのではなく、かれらの心の糧や知恵となるしっかりしたものを与えたかったようだ。このため、にじでも平易な言葉を使って、難しいことをごまかしをせずに説明するという方針がとられていたようである。実際、創刊号の最初の記事として掲載された中谷宇吉郎の「虹」は実際の虹はスペクトル原色ではなく、色調は単一ではないことを干渉作用まで踏み込んで記述したもので、平易な言葉でありながら、現象の奥深くまで切り込んだ日本語で書かれた虹の解説ではベストといってもよいものである。

 「赤とんぼ」も「にじ」も戦後数年で廃刊となってしまった。ただ、文学雑誌である「赤とんぼ」の方が注目度は高かったようで、復刻版も出されている。一方の「にじ」はほぼ忘れられた存在になってしまっているのだけれど、「にじ」の創刊号に示された藤田の志を見ると、今でも重要だし必要なものであると感じる。そこで、手元にある号の内容を紹介する前に、まずは、藤田による創刊の言葉を紹介する。
 なお、にじは古本屋に出てくることの少ない雑誌であるが、幸いなことに1948年5月号以外は国会図書館のデジタルアーカイブに収められている(2016年3月現在で、1948年の2,3,4月号は未収録だが、これは集録されることになると思う)。著作権の関係で国会図書館内限定公開なのだけれども、コンピュータの画面上で楽しめるし、コピーを手に入れられる。。
創刊にあたって 藤田 圭雄(編集人)

★プロメテウスが天上の火をぬすんで来てくれた時から、人間の世界には新しい創造の仕事がはじまった。考えること作り出すことが人類の生活を刻々に向上させて行った。神秘と呼ばれ不思議に感じられている自然のとざされた幕を一枚一枚めくり上げ、すべての物の本当の姿を、この二つの目でしっかりと見とどけるだけではなく、あらゆる精巧な機械の力によってその本質をつかまええ行くのであった。人間が人間であることの誇りも喜びも、それは科学的ないとなみの上に立ってはっきりと考えられることではないだろうか。
★この雑誌は、少年少女諸君に、科学的な知識をあたえるだけの目的でつくられているのではない。単に科学の専門的な知識を求めようとするのならば、それはそれぞれの部門の系統たった深い研究書が沢山にあるだろう。この雑誌でも次号から、そうしたそれぞれの道に進もうと志す人々への、良い道案内の本を紹介して行きたいと思っている。しかしこの雑誌はそれよりももっと幅の広い別の使命を持っている。それは諸君の科学への志諸君の科学の勉強への正しい心がまえと、にごらない瞳の輝きをあたえることである。文学に志す人も、音楽を一生の仕事と考える人も、その人が文化人として、人類の進歩のために少しでも役立とうと考えるならば,知っていなければならぬ事実とその考え方のすじ道をはっきりとしめそうというのがわれわれのこの仕事の根本的な希望であり努力である。
★科学は近よりにくいものでもないし、わからないものでもない。しかし求めようとしなかったり、わかろうと努力しない人のためには全くの他人である。科学的な真理を、やさしく面白く解説する−ということがよく言われる。しかしそんなことは出来ることではない。ルールを知らないで野球を見ているようなもので、いつまでたっても本当の面白さもたのしさもわいては来ない。まず諸君はルールを覚える努力をすべきである。ルールをしっかりと覚え込めば、それから先のたのしみは無限に広い。この雑誌は諸君にはむずかしく感じられるかもしれない。しかしこれは科学への道に入って行くためのルールである。日本を代表する世界的にも立派な科学者の方々が、誰にでもよくわかる言葉で諸君に話しかけている。しかし決して面白おかしくしようとしたり、むずかしい点をぼやかしたりはしていない。
★まちがった政治のおかげでどん底に沈み込んだこの国を美しく輝かしい国にもり上げて行かなくてはならぬ諸君は、科学的な正しさで常に澄み切った頭をしていなくてはいけない。この雑誌は科学ずきの少年少女諸君だけのものではない。あらゆる分野に進んで行こうと志す、すべての人々の毎月毎月の良い友だちでありたいと思う。
★少年少女諸君に喜びとたのしさを贈り、豊かな明るい心をやしなう雑誌「赤とんぼ」とともにあわせて読んでほしい。政治家が政治のことだけより知らなかったり、文学者が文学以外に無関心だったり、世の中のことを何にも知らない科学者を大学者のように思ってありがたがったり、そういう片輪の人間が出来るところに国の不幸が生まれる。
★「赤とんぼ」と同様、この雑誌も諸君の雑誌だ。希望があったら遠慮なくどしどしと言ってほしい。諸君のまじめな研究のためにはいくらでも頁をさこう。そして諸君と共にこの雑誌を育てて行きたい。
創刊号からの内容の変化
 創刊号に掲載された中谷宇吉郎の「虹」は、虹について知った気になっている大学理系教養程度の知識を持った人間が読んでも目から鱗が落ちるような内容を含んでいる分、雑誌の対象読者には分からない部分も多かっただろうと思う。もちろん、分からないことがあることが分かるのは決して悪いことではなく、未知の学習への励みともなるものだけれども、それ以上に読者を怖じ気づけさせるものでもあったようだ。
 実際、にじの創刊号が出た後の、赤とんぼの編集後記(皆さんとお話をする頁)の中で、藤田は、にじの創刊号について、好意的な批評がある一方で、難しすぎるという声があったことを紹介して、2号では楽しい記事も多く怖じ気づかないで読んで欲しいと記している。
 では、その後に虹の記事は怖じ気づかないものになったのかというと、1月号の動輪に関する記事の中に、読者が書き込んだ数式があるのだけれど、それは明らかに大学教養レベル以上の人のものであり、すくなくとも、それに関しては読者はかなりの年齢だったと思われる。
 にじの編集後記は、最初の何号かで消滅してしまっているため、にじの中から藤田の言葉を拾えなくなるのだけれど、赤とんぼの方では、その後もにじに触れていて、4月号では赤とんぼと合わせて野球に関する話題を取り上げるように工夫していることが紹介されているし、その後も、にじを想定読者の手が届くレベルにするような記述が見られるが、実際にどこまで手が届いていたのかは不明なところである。
 以下、各号の目次を掲載する。手元に現物があるものは表紙と裏表紙の写真を掲載する。
第1号 1947年10月1日発行 定価15円



「にじ」の創刊号。目次には
● 虹…………………………… 中谷 宇吉郎… 3
● 円形のいろいろ…………… 矢野 健太郎… 9
● 宇宙の釣り合い…………… 鈴木 敬信…… 14
● おもちゃの材料に空カンを… 山村 弘……  18
● 時速3000キロ……………… 葉山 俊……… 20
● カンズメボイラー…………… 大窪 護……… 30
と、6本の記事が記載されいている。なお、矢野健太郎の円形のいろいろは、図形のいろいろの誤植であり、次の号で訂正がなされている。この作品は連載もので何回かにわたって掲載されている。
、目次に掲載されているもの以外に、
●表紙裏に「知恵の泉」というクイズがあり、その解答は裏表紙の裏にある
●目次頁の上は写真になっていて、その解説は29頁にある。
●表紙の図の解説は17頁
●裏表紙は植生の緯度と高度による変化を示した図で解説は13頁
●裏表紙裏に創刊の言葉
が掲載されている。

第2号 1947年12月1日発行



「にじ」の第2号。月を想定していたはずだが、1ヶ月あいてしまっている。そのため12月号という表記ではなく、2号という表記になっている。2号には目次がないので、最初から内容を拾うと
知恵の泉  表紙裏
毛虫はなぜ銀貨からおりてこないか? 1
昆虫のかたちと生活 古川 晴男 2
めずらしい虹 朝比奈 貞一 6
知恵の泉 解の1  9
機関車の煙よけ  大窪 譲 10
冬はなぜ寒いか (裏表紙解説) 19
図形のいろいろ 矢野 健太郎  20
知恵の泉 解の2  25
月世界旅行案内 浅野 幸男 28-30 (上段)
塩の山を訪ねて 秋山 信 28-30(下段)、31
毛虫はなぜ銀貨からおりてこないか解説 32
二つの太陽と地震(編集後記 藤田) 裏表紙裏

第2巻第1号(1月号)



この号から月刊となり、蚊の研究と赤とんぼの研究の二つの読者の研究がはじめて掲載されている。この号にも目次がない。

知恵の泉(問)  表紙裏
めずらしい気象現象(裏表紙解説) 朝比奈 貞一  1
空気と植物  門司 正三  3
蚊の観察 岸田民也(小五)  5頁右半分
赤とんぼの研究  国井 純一/川股 宏司   8
海に下るウナギ  檜山 義夫  10
図形のいろいろ 3 矢野健太郎 13
動輪 大窪 譲 18
知恵の泉解答  32
正確さということ(編集後記 藤田) 裏表紙裏

この号には読者の原稿募集がある。

第2巻第2号(2月号) 定価20円



目次があり
原子快速線  葉山 俊 2
低気圧や高気圧の風はなぜ渦巻くか? 荒川 秀俊  10
日本の鳥  高島 春雄 18
アメリカの模型機関車  大窪 譲 14
図形のいろいろ  矢野健太郎 24
工作・首ふりの虎 19
知恵の泉 ヒント 13 解答 23
表紙・さしえ  伊藤憲治

目次以外の記事は
知恵の泉(問題)  表紙裏
ハイドロポニック農園を見る  長谷川 健  32(下)
諸君の研究(編集後記 藤田)  裏表紙裏

この号には読者の研究募集がある

第2巻第3号(3月号)



3月号では2番目となる読者研究(かなの度数分布)が掲載されている。3月号目次 この号には藤田の編集後記はない。
動物の生活  古賀 忠通  2
遺伝はどうしておこるか 柘植 秀臣  22
かなの度数分布について 館 鄰  14
太陽系はどうして出来たか  古畑 正秋  18
正確な時をはかる 虎尾 正久  23
アメリカの新型自動車ができるまで   6
地層のいろいろ(裏表紙解説) 高井 冬二   27
近付いた火星    13
表紙・カット  伊藤憲治

以下は目次に掲載されていない記事
知恵の泉 問題 表紙裏
知恵の泉 考え方 17
知恵の泉 解答  27
ロケット式旅客機(表紙解説) 裏表紙裏

この号に読者原稿募集はない

第2巻第4号(4月号)


野球医学 スポーツと心臓  白石  謙作 2
野球物理学 野球の物理   林 毅  8
野球心理学 野球はなぜ面白いか  相良 守次  15
野球工学 野球ボールの作り方  斎藤 昇   18
スポーツのスピード  21
知恵の泉 ヒント 7 答 32
日食   清水  彊  24

表紙・カット 伊藤憲治
以下は目次には掲載されていない記事

知恵の泉 問題  表紙裏
思いつき工作 ころがらないボビン  7
思いつき工作 電気ハンダコテかけ 31

C59型蒸気機関車 裏表紙裏
読者の原稿募集あり

第2巻第5号(5月号)


超高速プロペラカーの設計と作り方  松本 正一 2
ビタミンについて  安田 利顕 12
図形のいろいろ 矢野 健太郎  20
原子爆弾   中村 誠太郎  26
飛行自動車  表紙3 解説 17
誰にでもできる工夫   
(1)よくまわる独楽 (2)豆電灯 (3)三徳橇   18
知恵の泉  表紙2 解答 23
読者投稿研究の募集がP17にある。原子爆弾は最後の頁まで記事が伸びていて編集後記類は存在しない。
第2巻第6号(6月号)



目次
動物はどうして動くか  木下 治雄  2
スケートのようなオートバイ モータースクーターの話  潮田 眞一郎  10
潜水ボートの作り方(僕たちの工作室)  島田 誠   14
盲人の電気杖  土屋 文雄 18
目に見える物の大きさ   位し 精一  22
針穴の虫めがね(僕たちの工作室)  久保田 俊  8
図形のいろいろ   矢野健太郎   26
知恵の泉 表紙二 考え方 25 解答 32
マーチン 2-0-2裏表紙裏

目次なし の記事は以下の二つ
思いつき工作 やわらかい音を出すベル 13
思いつき工作 クリップにもなる干物ばさみ
読者の原稿募集あり

第2巻第7号(7月号)



水泳の科学が特集されている。目次は
水泳の物理  中村  弘 2
水泳とからだ  高橋 吉雄 6
レコードと体質 白石 謙作 10
動物はどうして動くか 木下 治雄 14
速く泳げる魚泳げない魚  寺尾 新 20
船のできるまで  坪田 俊一 22
思いつき工作 簡単なアルコールランプの作り方 18
かにと氷   13
表紙解説 かえる人間 32
知恵の泉  表紙2 解答 32
第2巻第8号(8月号)


目次
これはなんでしょう   1
模型ロケット自動車  久山 秀雄 2
飛行機hあどのくらい速く飛べるか  4
ライオン(野生動物の習性)  秦 一郎 6
夏の雲  曲田 光夫  12
猿か人か北京人類   高井 冬二  10
僕たちの工作室 紙の歯車の作り方  高橋安人  14
ものを冷やす機械 田丸 成雄  18
オートバイの構造 豊田 一夫  22
珍しいお魚のいろいろ 26
猿の吊橋  大島 正満   24
横穴の中野光  朝比奈 貞一 26
図形のいろいろ  矢野健太郎 28
知恵の泉 表紙二
知恵の泉答  21
火星から来た怪物か?(表紙解説)  表紙三
成層圏飛行(表紙)  伊藤 憲二

第2巻第9号(9月号)

目次
これはなんでしょう 1
銀河の世界 鈴木 正? 2
空を見る眼 東條 四郎  6
星の光  R・ジョセフソン 10
トラ(野生動物の生活と習性)  秦 一郎 18
歯車のいろいろ  高橋 宏人  22
ケーニヒスベルクの橋 24
飛行機はどのくらい高くとべるか  8
蛙の観察と解剖  中井 準之助 14
自転車はどう変わってきたか 田丸 成雄   26
図形のいろいろ 矢野健太郎 28
火星旅行(表紙の説明) 16
空カンを利用したローソクたて 12
風のとおり道 17
面白いパンタグラフ  32
知恵の泉 表紙2
知恵の泉(答)  32

第2巻第10号(10月号)


この号から野尻抱影による星座の話が始まっている。
目次は
これはなんでしょう 1
電球の不思議   葉山 俊 2
鉱石受信機をつくりましょう 佐藤 善慶 6
空飛ぶロケット弾  藤原 義輝 8
カルメ焼の話  由良 玲吉   10
氷山と鯨の海  杉浦 次郎 12
お魚もなきます  岩佐 正夫 18
ニュートン  三石 巌  16
潜水旅客船  伊藤憲治  表紙
かびの科学 秋谷 七郎 14
単音ハーモニカの構造  16
電気錠のつくり方  谷 誠 20
ものを洗うばかりが石?ではありません 中川昭久 22
ひょうとチーター(野生動物)  秦 一郎 26
10月の星座(毎月の天文) 野尻 抱影 32
知恵の泉 表紙2
知恵の泉(答) 322

第2巻第11/12号(11/12月号)

12月号は11月との合併で存在していないらしい
目次
風と水のいたずら 杉山 隆二 1
ものを透す光線  石田 勝哉 22
前世紀の怪物 高い 冬二  4
橋のいろいろ  岸田 日出刀 18
野球のページ カーブの投げ方 林 毅 10
起重機をつくりましょう 船戸 昌夫 26
11月の星座(毎月の天文) 野尻 抱影 32
1億年昔の動物 表紙2
貝塚  長谷部 言人  8
アルミ貨のちゅうのり  久山 秀雄  14
野球ゲームのつくり方  熊谷 利夫 24
植物の冬ごし  長谷川 誠資  6
電気の恩人 マイケル・ファラデー  菅井 準一  16
プレィイングルーム   20
大山猫(リンクス)  秦 一郎 28
人間の弾丸 16
ぼくたちにできるパン焼器   32
豆ニュース 13