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コレステリック液晶の選択反射

選択反射

 コレステリック液晶は分子の方向がらせんを描く構造をしている。らせん周期をpとすると、光学的周期はその半分のp/2となる。このp/2間隔の周期構造により、コレステリック液晶は多層薄膜に類似した反射帯を持つ。分子長軸方向の屈折率をne、短軸方向の屈折率をnoとして、らせん軸に平行に入射した光の反射帯はp×noからp×neの波長範囲となる。反射帯はp/2周期に対応するものなので、ハーフピッチバンドと呼ばれる。

 周期pに対応する反射帯(フルピッチバンド)が存在するなら、その反射帯の波長域はハーフピッチバンドの2倍となる。しかしコレステリック液晶ではフルピッチバンドは出現しない。これは、p/2周期の戻り光とp周期の戻り光とが逆位相で相殺するためである。

 0度と180度が光学的に異なった構造なら、フルピッチバンドが出現する。SmC液晶のC配向ベクトルは極性があるので、0度と180度の区別はある。しかし、垂直入射に関しては、0度と180度での屈折率は等しいため、SmC*相でも層法線方向からの入射ではハーフピッチバンドしか出現しない。層法線から傾いて入射する光線に対しては0度と180度で屈折率が異なるので、フルピッチバンドが出現する。SmC副次相でも、SmCA*相などの反強誘電相では斜入射でもフルピッチバンドは見られない。このため、斜入射光線でフルピッチバンドが見られるかは、SmCA*相とSmC*相を区別する一つの方法となる。

  コレステリック液晶やSmC*液晶の選択反射には2つの特徴がある。一つ目は、液晶のらせんと反射する円偏光の掌性の関係で、液晶のらせんが右巻きなら、右円偏光のみを反射する。左円偏光は反射されずに透過してしまう。逆に左巻きなら左円偏光を反射し、右円偏光は透過する。ここで、円偏光の符号は、光学研究者の定義によるものである。

 選択反射の二つ目の特徴は、反射した円偏光の符号が入射円偏光と同じであることである。通常の鏡で円偏光を反射すると、右円偏光は左円偏光に、左円偏光は右円偏光へと掌性が反転する。これに対してコレステリック液晶の場合は、右らせんは右円偏光を右円偏光として反射し、左らせんは左円偏光を左円偏光として反射する。

 選択反射の2つの特徴は、よく知られた事実であ、式を用いた解説はなされているけれど、感覚的に納得した気分になれる定性的な説明を見たことがない。そこで、厳密性はなく、正確性に疑問が残るのは承知の上で、定性的な説明を試みる。

棒状反射体射

 棒状の反射体を考える、この反射体は入射光のうち、棒の長軸に平行な偏光のみに応答し、入射波と同じ位相の波を前後に放出するものとする。

図では入射波とほぼ同じ振幅の波を前後に放出しているが、これは、図を見やすくするためで、実際には、棒1本あたりの反射率は低く、ほぼすべての光は通過する。しかし、このような棒を光の進行方向にλ/2間隔で並べておけば、干渉により波長λの光を反射するようになる。また、棒状反射帯は実際には2次放出を棒に垂直な面内すべての方向に放出するが、それは無視している。戻り光の位相の関係を考えるにはこれで十分だからである。それでは気持ちが悪い方は、棒はλ/2間隔で連なっており、また、光線方向に垂直な面内にも光の波長より十分短い間隔で存在していると思って頂きたい。なお、上の図では棒から入射光と同方向に放出された波も示しているが、図が煩雑になるので、後方への戻り光のみを示すことにする。   

同一平面にあるクロスした棒による応答

 まずは、座標の原点に2本の棒が光の進行方向に垂直な面内でx方向とy方向に配置している場合を考える。ここに斜め45度方向の直線偏光を入射する。入射光の位相はx偏光とy偏光で同じであり、位相差は0である。反射しても位相差に変化はないので、入射偏光と傾き方向が同じ直線偏光となる。

物理的には同じ偏波面の光が戻っているけれども、光学屋流儀では入射時と反射時では座標系を右手系に保つために、一方の座標軸が反転しており、その軸方向では波の位相も反転する。入射光の振動面が第1、3象限にあったなら、反射光の振動面は第2、4象限にある。1/2波長板と同様の働きをしている。

 つづいて、右円偏光を入射する。

図はxy面に向けて光が進んでいるので、電場ベクトルの軌跡が進行方向に垂直な面を横切る軌跡は反時計回りになっている。右円偏光が棒構造での反射時にそれぞれの方向で位相は変化しないが、進行方向が反転する。その結果、手前に進行する光は入射と同じ回転をしており、xy面に平行な平面上の軌跡も反時計周りのままである。この円偏光は定義より左円偏光である。直線偏光入射時に反射が1/2波長板として働いていたこと、右円偏光が左円偏光に変換したことは、いずれも一方の軸方向の位相が反転したことによるもので、整合的な結果である。

一方の棒が1/4波長ずれた位置に配置した場合の応答 

 y方向の棒をx方向の棒からλ/4だけ、奥に設置した構造を取り扱う。x方向に対してλ/4だけ離れているので、y方向からの戻り光はx方向に対して往復の距離、すなわちλ/2だけ遅れる。

 この構造による直線偏光の反射を考える。

入射光ではx成分とy成分は同位相である。反射光ではy成分はx成分に対して180度遅れる。その結果出射直線偏光の振動面は入射偏光をx軸(y軸)に対して線対称となる。物理的にはλ/2波長板と同等の働きをしている。しかしながら、一方の座標軸の符号反転が生じているため、反射後の座標系で考えると、入射波と同じ傾き面の波となっており、この構造は反射後に元と同じ偏波状態を保つ構造であることになる。

 続いて、円偏光の反射を考える。

この場合も直線偏光と同様に、y成分の位相が180度遅れる。この遅れが反射時の符号変化による180度の位相変化と相殺するため、円偏光の符号は変化しない。コレステリック液晶の選択反射の特徴の一つはこれで説明できる。しかし、この構造では、右円偏光も左円偏光も同様に掌性を保ったまま反射してしまう。選択反射のもう一つの特徴を説明するためには、より複雑な構造モデルが必要である。考えてみれば、y軸方向の棒がλ/4だけずれた構造には鏡面がある。一方の円偏光のみを選択するためには、鏡面を持たない掌性のある構造を考えなければならない。

掌性のある構造

 そこで、x方向の棒からλ/8だけ手前に+135度方向の棒を、3λ/8の位置に45度方向の棒を付け足した構造とλ/8だけ手前に+45度方向の棒を、3λ/8の位置に135度方向の棒を付け足したを考える。最初の構造は右ねじれに、後の構造は左ねじれに対応する。まず、右ねじれのほうから、0-λ/4の組み合わせによる戻り光と、λ/8-3λ/8の組み合わせによる戻り光の関係を見てみよう。

 

両者は同じ位相で戻っており、この構造により入射した右円偏光は問題なく反射されることがわかる。続いて、左ねじれの場合の関係を検討する。

 

こちらでは、、λ/8-3λ/8による戻り光も0-λ/4による戻り光と同じ掌性ではあるが、位相が180度異なっており、両者は相殺してしまう。つまり左ねじれ構造は右円偏光を反射しない。

図では示さないが、左円偏光に対しては左ねじれ構造が同位相で光を戻すのに対して右ねじれ構造では位相が反転した戻り光となってしまう。

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