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液晶ってこんなもの(作業中)

はじめに

  テレビやパーソナルコンピュータの画面に「液晶ディスプレイ」が使われるようになって、「液晶」という言葉はポピュラーなものとなりました。しかし、言葉の一般化とは裏腹に、液晶がどのようなものであるのかについての知識は広がってはいないように思います。液晶は、液体と結晶の中間状態の一種なのですが、ほかの中間状態も含めて、液晶の概要を紹介します。

物質の3態と中間相

 高等学校の化学の教科書では、物質は固体、液体、気体の3つの状態を取ることになっています。日常用語の「固体」は流動性のない物体を示す言葉で、木材やガラスも「固体」ではありますが、物質の3態というときの固体は「結晶」を意味します。

 身近な結晶の代表例は食塩でしょうか。食塩の結晶は立方体の形状になりやすいのですが、この外形は結晶中のイオンの配置を反映したものです。食塩の結晶では、ナトリウムイオンと塩素イオンが交互に立方体の頂点に位置しています。ミクロな配列が目に見える形状を定めているのです。

 結晶では3次元方向に原子や分子が定まった周期性のある並びをしています。周期性は長い距離に渡って保たれているので長距離秩序と呼ばれています。結晶を作っている粒子がベンゼンやナフタレン分子などのように、球状ではなく方向性のある形状をしている場合には、結晶において粒子の位置の周期性に加えて、粒子の方向も、各位置ごとに定まっています。位置の周期性に加えて、粒子の方向にも長距離秩序があるのです。

 方向と位置の長距離秩序を持っている結晶が加熱により熔融して液体になるときには、方向の長距離秩序と位置の長距離秩序が同時に崩れて、粒子の方向も位置も、ダイナミックに変化する流動状態になります。個々の粒子に異方性があっても、巨視的には粒子の異方性は相殺されてしまい、異方性のない等方的な液体になります。

 多くの物質では位置と方向の長距離秩序が同じ温度で焼失しますが、物質によっては、昇温過程で、まず方向の長距離秩序が失われて、より高温で位置の長距離秩序が失われるような2段階の熔融をするものと、昇温過程で、まず位置の長距離秩序が失われて、方向の長距離秩序を維持した粒子が流動状態になり、さらなる昇温で方向

の長距離秩序も失われる2段階の熔解をするものがあります。

柔粘性結晶と液晶

 位置と方向のどちらかの長距離秩序のみが失われた状態は完全な結晶でも液体でもないので、結晶と液体の中間相になります。方向の長距離秩序のみが失われている状態は、粒子は3次元的に規則的に並んでいますが、粒子の方向はランダムで変化し続けているため、粒子間の相互作用は普通の結晶に比べて弱くなります。粒子間力が弱いため結晶は変形しやすい柔らかいものとなるので、柔粘性結晶(Plastic Crystal)と呼ばれています。柔粘性結晶の代表例はフラーレン分子(C60)です。

 柔粘性結晶とは逆に、昇温時に位置の長距離秩序が先に失われてる場合には、中間相は方向により何らかの性質が異なる異方的な流体となります。これが、液晶です。図は液晶状態のスナップショットで、細長い粒子が、完全にではないですが、ランダムにでもなく、上下方向を中心に向きをそろえています。結晶では、粒子の方向は厳密に定まっていますが、液晶状態では熱揺らぎの効果もあり、粒子の方向は均一ではなく分布があります。それでも、巨視的な異方性が発現しています。

様々な液晶相

 結晶と液体に話を戻すと、結晶の長距離秩序は、3次元すべての方向に存在しており、液体になる時点で、3次元すべての方向で失われています。しかし、結晶を構成する粒子に方向性がある場合は、粒子間の相互作用にも方向性がありますから、昇温にともなって、3次元すべての方向の長距離秩序が失われるのではなく、相互作用の弱い方向の長距離秩序から失われていくようなことが生じてもよいわけです。

 そうしてみると、通常の3次元結晶と液体の間には、2次元結晶で1次元液体の相と1次元結晶で2次元液体の相の存在も考えられるわけです。そしてこれらの相は実在していて、2次元結晶系はカラムナー液晶、1次元結晶系はスメクチック液晶として液晶に分類されています。

 


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