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非純正カメラの取り付け

はじめに

  写真やビデオ撮影用のカメラは顕微鏡メーカーから販売されていますが、それ以外のメーカーのカメラを装着することもできます。とはいえ、組み合わせが悪いと、顕微鏡の性能を引き出した画像を得ることができません。顕微鏡にカメラを取り付ける手法と注意点を記します。

イメージサークルと変換倍率

 顕微鏡対物レンズによって得られる良好な像のサイズ(イメージサークル)は直径22 mm〜26 mm程度です。フィルムや撮像素子の対角線長がイメージサークルより大きいと、得られた画像の周辺部は画質が悪かったり、まったく写らなかったりとなってしまいます。このため、対物レンズの像を直接撮像面に結像するのではなく、投影レンズにより像を拡大して、イメージサークルが対角線長以上に拡大する必要があります。

 撮像素子の対角線長がイメージサークルより短い場合は、画面全体の画質は担保されますが、対角線長より外側の部分は記録できませんので、目視観察に比べて狭い範囲しか記録できなくなります。このため、対物レンズ像を直接結像するのではなく、投影レンズによりイメージサークルを撮像素子の対角線長程度に縮小することが望まれます。

下記の表に、いくつかの種類の撮像素子の大きさと、イメージサークルが22mmと26.5mmに対する対角線の比率を示します。たとえば、型名識別記号がCの1インチの撮像素子は、対角線長が15.9mmですので、イメージサークルが22mmの対物レンズを使う場合には、0.73倍まで縮小することができます(この倍率では顕微鏡の光軸と撮像素子の中央が正確に一致している必要がありますので、現実的にはもう少し倍率が高い方がよいでしょう。)。この値以下の倍率では画面の四隅の画質が低下したり、暗くなってしまいます。

 

型名識別記号 撮像素子 水平 垂直 対角 アスペクト比 22.0比 26.5比
12.8 9.6 15.9 4:3 0.73 0.60
  13.2 8.8 15.9 3:2 0.73 0.60
  1/1.2 10.72 8.084 13.4 4:3 0.61 0.51
H 2/3 8.8 6.6 11.0 4:3 0.5 0.42
  1/1.8 7.2 5.4 9.04 4:3 0.41 0.34
D,S 1/2 6.4 4.8 8.0 4:3 0.36 0.3
  1/2.7 5.3 4 6.67 4:3 0.3 0.25
Y.T 1/3 4.8 3.6 6.0 4:3 0.27 0.23
Q 1/4 3.6 2.7 4.5 4:3 0.2 0.17
Four Thirds 4/3 18 13.5 22.5 4:3 1.02 0.85
APS一眼(D1) APSサイズ 23.7 15.6 28.4 1.52 (3:2) 1.3 1.07
35mm ライカ判 36.0 24.0 43.3 3:2 1.97 1.63
             

表:各種撮像素子サイズと標準的イメージサイクルに対する比率

 かつて、顕微鏡写真には35oフィルムが用いられていた時代には、投影レンズとして、2.5倍から5倍程度のものが用いられていました。5倍だと目視観察している領域の15%程度の領域しか撮影できないのですが、フィルム撮影では、画像の一部を取り出して用いるのが困難であったため、狭い範囲のみを撮影できる投影レンズの需要もあったようです。デジタルカメラを用いる場合には、カメラの素子数が対物レンズの分解能に対応できているなら、可能な範囲で投影レンズは低倍率のものを用いる方が、広い領域の画像を得られるので、有利です。撮像素子の縦横比は、3:2のものと4:3のものがありますが、1:1に近い方が撮影面積は広くなります。

 

顕微鏡へのカメラの取り付け

顕微鏡にメーカー純正以外のカメラを取り付けるにはいくつかの方法があります。ここでは、その中で対物レンズの像を直接、または投影レンズを通して撮像素子に結像する方法のみを取り上げます。直接結像にしろ、投影レンズを使うにせよ、最も大事なことは、目視観察とピントが一致するようにセットアップすることです。目視観察とピント位置がずれていると、対物レンズ像には収差が生じているはずで、ベストの像にはなりません。また、目視観察と撮影でピントの合わせなおしが必要となり、作業効率も悪くなります。

投影レンズを用いる場合は、投影レンズによっては、ピント面の平坦性がない(画面中央はピントが合っているけれども、周辺部はピントがずれた状態)ので、その投影レンズによる作例などを探して、購入時の参考にするとよいでしょう。

顕微鏡にAPS-Cや35mmのデジタルカメラを取り付けるのには、現状では、適切な投影レンズのついたフィルムカメラが装着できる顕微鏡ポートを用いるのが、ほぼ唯一の方法となっています。旧世代の顕微鏡ではニコンの撮影装置のカメラの取り付けには、ニコンFマウントが用いられていたため、通常のニコン1眼レフを取り付けられました。また、オリンパスのシステムは専用のカメラでしたが、オリンパスの1眼レフを取り付けられるユニットも提供されていました。ニコンからはデジタル一眼レフカメラが販売されていましたので、フィルムカメラに変えて取り付けできました。オリンパスは35mmサイズのデジタルカメラは販売しなかったのですが、マウント変換アダプターを介してキヤノンのデジタル一眼レフの取り付けが可能でした。

変換アダプターの使用にあたっては、各種マウントの規格が問題となります。以下に、現在は使われていないものも含めて代表的なマウント規格を示します。

マウント フランジバック 口径 ピッチ 備考
17.526 25.4 32/インチ  
CS 12.5 25.4 32/インチ  
T 55 42 0.75  
プラクチカ 45.46 42 1.9  
ライカL 28.8 39 26/インチ  
ENG     B  
OM 46.0   B  
EOS 44.0   B キヤノン
F 46.5   B ニコン
M 27.8   B ライカ
4/3 38.67   B  
E 18.0   B ソニー
Nikon 1 17.0   B 1インチ素子
Z 16.0   B ニコン
RF 20.0   B キヤノン
L 20.0   B  
μ4/3 19.25   B  
         

表2:代表的なマウントの規格

フランジバックはレンズの取り付け面から撮像面までの光学長です。あるマウントから別のマウントへの変換をするためには、原則として、変換したいマウントの方がフランジバックが短い必要があります。ですから、OMからEOSへの変換アダプターは存在しますが、EOSからOMへの変換アダプターは存在しません(存在したとしても無限遠でピントが合わなくなります。あと、変換側の口径が十分に大きいことが必要です。)。

一眼レフカメラではミラーボックスが光路にあるために、どうしてもフランジバックが長くなりますが、ミラーレスカメラにはミラーボックスがないため、フランジバックをより短くすることができます。どのメーカーのミラーレスカメラも、ニコンFマウントやOMマウントより、フランジバックがかなり短く、それぞれのマウントからの変換アダプターが存在します。FマウントかOMマウントのついたアダプターと2倍以上の倍率の投影レンズがあるなら、適当な変換アダプターを使って、35mm判のミラーレスカメラを取り付けることができます。

ミラーレスカメラのマウントには、cマウントからの変換アダプターが提供されているものがあります。ニコンの製品を除いては、cマウントよりフランジバックが長いので、変換アダプターが存在しているのは不思議な気がすることではありますが、変換アダプターをみると、中央部分が窪んだ作りになっていて、カメラのマウント面より内側の位置でcマントの光学素子が取り付けられるようになっているようです。

顕微鏡のcマウントアダプターの投影レンズは倍率が1倍以下のものが一般的です。また、投影レンズのイメージサークルも広くはないようです。cマウントから代表的なミラーレスマウントへのアダプターは市販されていますが、35mmフォーマットのカメラでは画面の中央に丸く画像が写り周辺部は暗くなり、あまり幸せな気分にはならないだろうと思います。それに対して、μ4/3かニコン1なら、目視観察に近い領域を全画面で撮影可能なので、顕微鏡カメラとしてのマッチングに文句はありません。残念ながらニコン1は新品では入手できなくなっていますので、現状ではμ4/3がほぼ唯一の候補となります。投影レンズなしの(等倍の)cマウントアダプターはニコンにもエビデントにもありますので、アダプター一つでμ4/3カメラが取り付けられます。

 


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