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カッターナイフ


カッターナイフの本来の用途

 カッターナイフは印刷業界で生まれた品物です。版下作業では1枚の紙を細かく切り分けることが多く、かみそりの刃を使っていましたが、刃の一部しか使えずもったいないのと作業性がよくないことから、それを解決する刃物として発明されました。

  カッターナイフが身近にある、ほぼ唯一の作業用刃物となってしまったために、本来の用途以外の場面でも使用されることが普通になってしまっています。たとえば、中学校の理科の教科書や参考書には植物や鉛の錘の切断にカッターナイフを用いている図があります。また、ペットボトルの切断に使われることもあるようです。しかし、これらはカッターナイフメーカーのWebにある使い方の危険な使用例に含まれるような使い方です。本来の用途以外の使用は自然発生するのに対して、安全な使い方の習得には学習が必要なのですが、学習機会が少ないために、生じなくてよいはずの事故が生じているように思います。

 企業の研究所の中には、カッターナイフによる事故を無くすために、カッターナイフの使用を一律禁止しているところもあるようです。確かに、一律禁止はカッターナイフによる事故を皆無にする最も効果的な方法ではあります。しかし、カッターナイフが使われていたということは、それを使うと効率よく作業できる用途があったということで、一律な禁止は可視化されない効率低下を引き起こしたり、異なる事故を誘発する可能性があります。一律禁止という安易な手法ではなく、効率を落とさずに安全性を高める方法を検討することが望ましいと思っています。

 カッターナイフに限らず、刃物類は人体に損傷を与えうるもので、事故を完全になくすことはできません。しかし、事故率を下げる努力は行えますし必要なことです。そのためには、まず刃物の種類や特徴を知り、作業に適した刃物を選択することが必要だと考えます。ただ、刃物全般となると話が大きすぎますし、手に余ることになるので、ここでは、カッターナイフと、代替となる刃物の一部を取り上げることにします。

 カッターナイフといっても、紙を切る作業用の本来のカッターナイフ(小型刃)もあれば、べニア板の切断などにも用いる大型刃の製品もあります。両者は刃物としての用途が異なっています。ここでは、事務作業用の本来のカッターナイフを中心に取り上げます。

使用上の重要な注意点

 先に進む前に、カッターナイフを使う上での注意事項を二つ記しておきます。一番目は使用時に刃を出しすぎないことです。カッターナイフの刃には、刃を折るための線(折れ線)が入っています。使用時にはその折れ線がホルダーの外に2本以上出ていたら、刃の出しすぎです。カッターナイフの刃は薄いため、刃を出しすぎると、切断時にしなったり、折れたりすることがありまます。刃を出しすぎると、刃のコントロールが効きませんので、ケガの原因になります。 

 二つ目は使用していないときには刃を引っ込めることです。「使用していない」というのは、切断作業のために手で持っていない時という意味で、継続して作業をしている場合でも、切断が終わってカッターから手を放すなら、その前に一旦刃を戻して、再度切断作業を行うときまでは刃が引っ込んだ状態にしてください。作業中にカッターナイフは机の上に置かれていることが多く、何らかの拍子に落下することもあります。その時に刃が出ていなければ、事故にはなりません。

 なお、銃刀法では刃渡り5.5 cm以上の刃物は規制の対象となります。カッターナイフの刃は未使用状態で刃渡り8 cmなので、規制対象となります。カッターナイフを鞄にいれていて職務質問に行き会うと面倒なことになる危険性があります。

ホルダーの種類

 いろいろなメーカーからいろいろな形状のホルダーのカッターナイフが販売されています。代表的な会社はオルファとNTですが、ホームセンターでは、このほかにタジマツールと貝印の製品もよく見かけます。ホルダーのデザインなどは趣味の部分もありますので、個別にお勧めはいたしませんが、ホルダーの選択に係る機能的なポイントについて個別に取り上げます。 

ノッチ式とネジ式

 カッターナイフは刃の出方の調整にはノッチ式とネジ式の2つの方式があります。ノッチ式ではホルダーには周期的な凸凹構造があり、その凸凹に刃と連結したノブ(スライダー)の噛み合わせで刃の出方を調整します。凸凹のある方が一般的なためか、特段の名称が見当たらないので、ここでは、「ノッチ式」と呼ぶことにします。ネジ式ではホルダーには凸凹はなく、スライダーについたネジを締めて、任意の位置で刃の位置を固定します。

 ネジ式は刃の出方を変えるのに、ネジを緩めて締めなおす作業が必要です。それに対してノッチ式はスライダーを滑らせれば刃の位置の調整ができます。この簡便さから小型刃ではほぼすべてがノッチ式となっています。一方、大型刃ではネジ式が残っていますが、これは、ノッチ式に比べてネジ式の方が刃の固定がしっかりしているためだと思います。小型刃は、それほど力をいれる作業は行わないので、ノッチ式が主流となっているのだと思いますが、ネジ式での刃の位置の細かい調整としっかりした固定ができます。ただし、ネジ式は大手メーカーでは2機種しか残存しておらず、また取り扱っている店舗もすくないため、入手性はよくありません。

ネジとノッチ
ネジ式とノッチ式のカッターナイフ。

オートロック式

 ノッチ式のカッターナイフでは切断作業時に刃先が何かに引っ掛かると、それに引きずられて刃が引き出されてしまったり、逆に刃が押し込まれてしまうこともあります。特に刃が引きずり出されると刃が折れて飛び散るなどの事故につながる可能性があります。

 使用時に刃が引きずり出されないように自動的にロックする機構を備えたのが、オートロック式で、安価な製品を除いては、標準的に採用されています。ノッチ式では、オートロック式がお勧めです。

オートロック
ノッチ式でオートロック機構のあるホルダー(上)とロック機構のないホルダー(下)。

ノッチ式の調整幅

 ノッチ式の調整間隔は折り線1本分のものと、折り線の半分の長さのものがあります。調整間隔が半分の方が、細やかな調整ができるので、使い勝手はよいです。かつては、1本分のものが多かったですが、最近は半段分の調整ができるものが増えています。

右利き用と左右両対応

 通常のカッターナイフ刃は両刃なので、刃自体に右利き、左利きの区別はありません。しかし、定規と合わせて直線切断するときには、ホルダーの表側が定規と接するようになるため、左右の違いが生じます。

 かつては、ホルダーの先端形状から刃を入れる向きは定まっていて、右利き用と左利き用ホルダーの区別があったのですが、最近はホルダーの先端が鏡映面を持ち、刃を入れる向きがどちらでも大丈夫な、左右兼用のものが増えています。

左右
左のカッターは右利き用。右のカッターは刃のいれる方向により左右対応になります。ただし、握り部分は対称性がないので、手になじむかは微妙なところです。左右両用にするなら、線対称構造が望ましいでしょう。

先端部分の形状

 カッターナイフ使用時には、刃先が目視で確認できる状態であってほしいと思います。刃先が見えないと、どこを切っているのかを正しく判断できません。品物によっては、先端部分が厚くて刃先が見にくいものがあるようです。また、ホルダーの剛性が低くかったり、ホルダー先端部分の空間と刃の間の遊びが大きいと、刃先が安定しないので、お勧めできません。

ロングボディー

オルファの職専シリーズには、通常より刃渡りの長いロング刃があり、これに対応する長いボディーのホルダーが存在します。刃の高さは小型刃と同じなので、ロングボディーのホルダーに通常の小型刃を取り付けることはできます。貝印にもロングボディーのホルダーがあります。

ロング
ロング刃用の眺めのボディー。上は貝印、下はオルファ。

セーフティーカッター

使用時の安全対策品として、手を離すと刃が引っ込むホルダーや、落とした時に刃が戻りやすいホルダーもあります。

刃が引っ込むホルダーはスライダーが2段になっていて、2段目を押していないと刃が出ない構造です。未使用時は刃が自動的に格納されますが、使用時には、刃の残存状態によって、ホルダーの持ち位置が変化するため、使い勝手はよくありません。刃が引っ込みやすいホルダーはノッチの形状が非対称で、刃を戻す方向には抵抗がすくなくなる形状です。ただし、オートロック式ではありません。また、切断作業時の事故を防ぐことには対応していません(こちらは、現在は廃番二なっているようです。)。


刃の種類

 小型刃は高さが9 mm、標準的なものは刃渡り80mm、厚み0.38mmで、折り線が12本入っています。ロング刃は刃渡り109.5mmで折り線は20本です。ロング刃を通常のホルダーに入れると先が飛び出してしまうので、専用のロング型ホルダーを使う必要があります。

通常刃と黒刃

 通常の小型刃(白刃)は表面に塗装や黒染めなどの処置はなく、金属本来の色味をしています。通常の小型刃とは別に黒刃というラインアップがあり、こちらはメーカーを問わず通常刃より切れ味がよいとされています。

黒刃

 写真は、オルファの通常刃と黒刃です。厚みは両方とも0.38mmの規格のものです。刃の部分を見比べると、黒刃の方が幅が広く、ということは刃先角度が小さくなっています。黒刃は切れ味がよい分、刃先がヘタリ易いので、刃先をより頻繁に折る必要があります。

薄刃と薄刃使用時の注意

 黒刃の中には、通常の厚み(0.38mm)より薄いものがあります。

うすば

 真ん中のNTの品は厚み0.25mm、上のオルファのものはロング刃で厚み0.2mmです。オルファのロング刃には0.3mmのものもあります。

 薄刃は通常の厚みのものより切れ味はよいとされていますが、薄いために曲がりやすく、また折れやすくなります。このため、刃を出しすぎたときの事故率は通常の厚さのものより高くなると考えられます。

 また、刃が薄いために0.38mm用に作られたホルダーでは、刃先のがたつきが大きくなります。それを減らすためには、ホルダー先端から1段程度刃が出ている状態で、ホルダーの先端部をプライヤーなどで押しつぶして遊びをなくするようにします。つぶしすぎると刃の出し入れができなくなりますので、様子を見ながら作業を行います。この作業をするためには、先端部分が金属製である必要があります。

片刃

 カッターナイフの刃自体は両刃であると記しましたが、片刃(右利き用)の刃先を販売しているメーカーもあります。

片刃

 写真上はカクイ印の大型刃で下はムラテックKDSの片刃の小型刃です。ムラテックは大型刃も販売しています。両刃を定規に当てたときのわずかなずれが問題になる場合などは試してみる価値があるかもしれません。


カッター周りの道具

刃折器

 カッターナイフは刃折り具が付いているものも多いのですが、折った後の刃の処理が手間になります。その辺に転がったり、普通のゴミ箱に紛れると、本人や処理する人のケガの元となりますので、必ず容器に保管して居住地の規則に従って廃棄する必要があります。

 カッターナイフに付属する刃折り具には使い勝手がよくないものもあります。また、折れた刃が転がり落ちかねないものもあります。このため、刃折りを苦手とする人もいるようで、その結果か、なまった刃先のカッターナイフを見ることもあります。刃先がなまると、切断作業に、より力が必要になり危険性が増します。

 刃折りのしやすさと、そのあとの処理を考えると、刃折器の使用がお勧めです。手元にあるのは、オルファの普通の「ポキ」で、溝に刃を差し込んで折り、折れた刃はそのまま中に収納されるので、安心して使えます。刃折器はカッターの刃の他、かみそり刃やメスの刃、カバーガラスなど、スリットを通り抜ける危険物の回収にも便利です。

 

カッティングマット

 カッターナイフで紙を切るときには紙の下に何かを敷いておかないと机を傷つけることになります。ある頻度でカッターを使うのでしたら、カッティングマットを買って用いるとよいでしょう。カッティングマットはカッター作業の他の工作時にも役立ちます。ただし、耐熱性はありませんので、はんだ付けをするときは加熱した鏝を置かない方が無難です。

 カッティングマットのサイズは切断物より大きいことが望ましいです。A4の用紙を切断したいなら、B4かA3のカッティングマットがあれば、安心して作業できます。長さはA3縦に対応して幅が狭いカッティングマットもあり、切断に必要な長さは確保されている一方、コンパクトにはなりますが、気をつけていないと、定規の端がカッティングマットの外に出ていて手の抑え方で撥ねることもあります。余裕があるサイズのマットを使えば、そのような事故が起こる率を減らせます。

 工作によく使う机がある場合には、大きなカッティングマットを敷くのも悪くはありません。逆に、カッター作業の頻度が低く、カッティングマットがない場合には、しっかりしていて、押してもへこまず、カッターの刃は食い込むような素材を敷くようにします。具体的にはグラビアのある雑誌は悪くはないと思います。ダンボールは押すと凹むのでお勧めしません。雑誌は、切断作業後は表紙(か裏表紙)がボロボロになるので、捨てる予定のものをお使いください。金属板など、刃が食い込まない硬いものは、刃先がすぐにダメになって切断がうまくいかなくなるので、避けた方がよいでしょう。

カッティング定規

 カッターナイフで直線を切る場合は、定規に刃を当てて切断します。この時用いる定規は厚さが3mm程度ある厚めで、エッジは直角に立っており、金属の補強がついたものを用いてください。このような定規はカッティング定規として販売されています。

 カッターナイフを定規のエッジに沿わせて切断している時に、カッターナイフの刃が定規に食い込むと、そのまま定規に乗り上げてしまい、定規を抑えている手が怪我をすることがあります。定規が薄く、またエッジ部分が斜めになっていると、乗上げが起こりやすくなります。エッジが直角で、金属補強がついていれば、カッターの刃が食い込んで乗り上げにくくなります。

 定規本体の材質は、事務、デザイン系のものはアクリル製が多く、工具メーカーのものはアルミ製が多い気がします。版下作業も含めてデザイン系作業では、切断場所が確認できることが望ましく、透明なアクリル製の方が使がってがよいです。

 アクリル製の定規の中には、本体にエッジに平行な線や方眼が入っているものもあり、位置を合わせながらの切断に便利です。紙片に垂直に切断する場合には、幅広の定規や、エッジ付きの三角定規が便利です。

 通常のカッティング定規では不安に感じる場合には、アルミ製となってしまいますが、防護用のガードがついたカッティング定規もあります。写真で示すものはスリムタイプで、小型刃を主な対象としたものです。大型刃を使う場合には、幅のはる通常タイプを選択して下さい。これらの定規を用いていても定規が安定しておけないような状況では安全は確保できないと思います。

 

作業ごとの道具

 カッターナイフメーカーのサイトには、カッターナイフの危険な使い方の例はあるのですが、では、どのような道具を使えば、より安全な作業ができるかの情報はありません。そこで、いくつかの作業について、個人的な手法を記します。ただし、記してある手法は、安全を保証するものではありませんし、それどころか、問題のある手法も含まれている可能性もあります。ですから、下記の手法に頼ることなく、複数の情報を比較して、その中でベストと思われるものを試されるようお願いします。。

アクリル板の切断

 アクリル板の切断にはカッターナイフではなく、アクリルカッターを用います。アクリルカッターは爪状の刃でアクリルを削る道具で切るのではなく削る作業となります。一回では浅くしか削れませんので、何度も繰り返し削り、アクリル板の1/2から2/3程度まで切り込みを入れて、切込み側を広げるように折って割り切ります。



鉛筆等を削る

 鉛筆や竹を削るのには、刃の厚みがあってしならない刃物を使います。具体的には肥後の守や切り出し小刀を使う作業です。これらの刃物を切れるように保つには、刃物を研ぐ必要が生じます。刃物研ぎの練習台としてもよい刃物です。

切り出し小刀や肥後の守では敷居が高いと感じたら、オルファのクラフトナイフがより手軽で同様に使える刃物となります。かつては、これらの作業の入門用として(関東地方では)ボンナイフが売られていましたが、おそらくは、カッターナイフの普及により、見かけない刃物となってしまいました。


エースナイフ。折り畳み式で、片刃のかみそり刃のような刃がついている。ボンナイフはこれと類似形状の刃物であったが刃の部分は長方形だった。


封筒の開封

封筒を開封したり、2つ折りにした紙を切り分けるのには、カッターナイフよりペーパーナイフか鋏を使うようにします。刃物の切れ味がよいと、折った紙を切ろうとしても、刃が折り線以外のところに食い込んで、折り線に沿ってきれいに切れなくなります。このため、ペーパーナイフの刃は、甘くつけられています。また、この作業をカッターナイフでやろうとすると、どうしても刃が出すぎになり、ケガの誘因になります。

切込み細工

紙に、ある形状の切り抜きを作るような作業は、ボール紙がカッティングマットの上に平面で置いてある状態なら、カッターで対応できる作業ですが、たとえば、紙コップに窓を付けるといったような空中での非平面のものが対象の場合には、カッターナイフは適していません。

カッティングマットの上の紙でしたら、上から刃を当てて力をかければ、刃は紙に食い込んで、そこから紙を切ることができますが、紙コップでは、紙がしなってしまって、軽い力では刃先が紙を貫通しません。最初に刃を貫通させるには、カッターナイフを立てて使うことになりますが、カッターナイフ先端部分の刃と背の間の角度は60度程度あるため、あまり容易な作業にはならないと思います。

このような作業では、カッターナイフより、デザインナイフの方が適しています。デザインナイフはカッターナイフの折り刃1枚のような刃を装着するホルダーで、先端角が45度と30度のものがあり、紙コップに穴をあけるなら、30度の刃を装着して使うのがよいと思います。カッターナイフと比べると、折り線がない刃ですので、作業中に刃が折れる心配はなく、また刃渡りも短いので、下手に切りすぎる危険性は少なく、そしてなにより刃先角が30度なのと、刃がホルダーに対して斜めに装着されているので、穴あけ作業が楽に行えます。

カッターメーカーからはデザインナイフの他に、折刃式で、先端角度が30度のカッターナイフと専用のホルダーも販売されています。また、角度30度のナイフ刃を遊びなしに保持できるホルダーも存在します。デザインナイフに比べて折刃式の方がコストは有利だと思います。この手の作業の頻度が高い場合には考慮の対象となる可能性があります。ただし、デザインナイフと異なり刃面がホルダーと平行になりますので、持ち方は異なるだろうと思います。

デザインナイフの他に、替え刃式のメスや、カービングナイフ、彫刻刀にもこの用途に適した刃先のものがあります。

ペットボトル、プラスチック容器の切断

ペットボトルやプラスチック容器の切断は容器がどの程度しっかりしたものかにより方法が異なりますが、いずれにせよ、小型刃のカッターナイフでは危険がともないます。

通常の飲料の蓋をあけた状態で手で少し力をいれると凹むようなペットボトルの場合は、デザインナイフと鋏の組み合わせが作業性がよいかと思います。まず、デザインナイフで切断したい場所に切込みを入れます。つづいて、その切れ込みから鋏をいれて切っていきます。鋏としては、写真のように持ち手が斜めになっているものが使いやすいと思います。

ただ、写真の鋏は先端部分が丸く大きく切込みに入れにくいのですが、ネットを検索してみると100円ショップで、この目的に合致する鋏を取り扱っているようで、高いものではないので、それを購入するのがよいかと思います。

蓋を開けた状態でも、しっかりしていてペコペコしないような厚手のプラスチック容器の場合には、個人的にはピラニア鋸のような目の細かい胴付き鋸をまず試すと思います。

ピラニア鋸右は部分拡大図。刃の間隔は1mm以下。

チューブ類の切断

ホースやプラスチックチューブの切断には、専用のチューブカッター類を使うのが筋ではあります。ただ、自分でも持ち合わせがないことを考えると、多くの方の手元には存在していない道具であるような気がします。

チューブカッターがない場合に何を使って切断するかというと、圧空などにつかうプラスチックチューブなら、ピラニア鋸、ホース類なら、万能ばさみか大型刃のカッターかと思います。間違えても、小型刃のカッターを使ってはいけません。ピラニア鋸を使えば、切断時にチューブを押しつぶすことがないので、そのあとにコネクターなどと組み合わせる場合も問題は生じないでしょう。ホースなど、切断時に潰しても、元の形状に復帰するものは、万能ばさみで切断できれば、それがよいと思いますが、そうでないなら、大型刃のカッターナイフ作業になるかと思います。大型刃は小型刃よりしなりにくいし、折れにくいですが、しなって折れると大きな事故につながりますので、より慎重に使うべきです。ゴムやホースの切断では切断箇所が切れたら開いていくように変形してから切断していくのがよいかと思います。切断面に刃が挟まれると、抜き差しならなくなり、刃がしなったり折れたりする原因になります。刃の抑えがついている大型刃ホルダーを使うと安全性は多少は確保されるかもしれませんが、入手性も含めて、一般的とは言えませんし、安全を保証するものでもありません。


布地などの変形しやすいものの切断

 布地など変形しやすいものはカッターナイフで切断しようとすると、引っ張られて変形して望み通りに切れない場合があります。そのような場合はロータリーカッターを使うと、望み通りに切断できるかもしれません。ロータリーカッターは切断する力が下方に働くので、切断時に切断対象を横に動かす恐れが少ないです。


写真は刃を出した状態ですが、使用していないときは刃を引っ込めてカバーの内側に収まるようにします。

植物の茎などの切断

 中学校の理科の教科書に出ていた、カッターナイフの刃を出しすぎの使用例です。話としては切れ味のよい刃物が必要という理由でカッターナイフが出てきているのだと思います

 この用途のためにはカッターの刃を出しすぎにする必要があります。また茎をきれいに切断するためには、刃先と台の角度が浅い方がよいのですが、カッターナイフを握る手が邪魔になって、角度を浅くするのには限界があります。

 この目的のためには、カッターナイフよりは、トマトを1mm幅できれいに切れる包丁の方が適しています。

 

ダンボールの切断

 小型刃のカッターはダンボールの解体作業には適していません。唯一使えるのは開梱作業ですが、その時も刃を出しすぎると内容物を傷つける危険性があります。梱包によっては、開梱時にカッターナイフを使用しないように注意書きされているものもあります。カッターを使って開梱作業するときは、ネジロック式のものをつかって次の写真程度に刃を出してテープのみを切断するようにすれば、中身に傷をつけることなく開梱作業ができます。

 開梱後にダンボールを解体するにには、刃をしっかり固定できるネジロック式だとしても、小型刃を使うのは危険です。お勧めはダンボールカッターで、これがあれば、かなり効率よく作業ができます。

 大型刃を使う方もいらっしゃると思いますが、カッターナイフはどうしても刃を出しすぎになりやすいようです。昔、テレビで見た梱包のプロは、ダンボール作業にカッターナイフではなく、ユーティリティナイフを刃を一番出さない状態で使っていました。

ユーティリティナイフ本体(上)と刃を出した状態(下)。刃は3段階しか出すことができません。


 ユーティリティナイフは欧米で一般的に使われている刃物ですが、日本では大型刃のカッターナイフが用途的に重なる部分があり広く使われているため、ポピュラーではありません。刃は台形形状で折れ線はありませんが、前後をひっくりかえすことにより1枚の刃を2回使えます。切れ味は大型刃より劣りますが、刃の固定も含めてボディーはしっかりしていて、ヘッドをハンマーでたたくような使い方もできます。

 

余談

カッターナイフの安全な使用法や代替手法とは関係ない、でもカッターナイフに関係するいくつかの話題。

 

オートロックの機構

ノッチ式のカッターナイフはオートロック機構付きのものがお勧めなのですが、メーカーにより機構に違いがあります。

写真はオルファのノッチ式(上)とオートロック式(下)のカッターです。刃の調整をするくぼみがノッチ式では連続する三角形なのに対してオートロック式では半円形のくぼみになっています。両方ともスライダーにあるでっぱりがくぼみにはまって位置決めをしますが、ノッチ式では刃を横にずらす力によりスライダーの出っ張りを押し込むため、刃がスライドしてしまいます。それに対してオートロック式では、くぼみの形状から刃を横にずらす力が、スライダーの出っ張りを押し込みにくいので、刃がずれないようです。そのままだと刃がずらせないのですが、スライダーを刃先方向か手元方向に動かすと、スライダーの上側と下側がずれて、でっぱりが引っ込むので、刃が横に動かせるようになります。

オルファのオートロックホルダーで、刃が半段間隔で調整できるものは、くぼみが連続して密に連なっています。なお、一段間隔調整のものも半段のものも、新品の刃を完全に収納できる位置にも窪みがあり、刃を安全に保持できるようになっています。

NTのオートロックホルダーの溝は半段調整ができる、オルファよりは浅い半円状のくぼみとなっています(写真OLFAの刃ですが、ボディーはNTです)。

NTAL1

NTもスライダーの上下が横にずれるとロックが外れる仕組みですが、その機構はオルファとは異なっています。

ntal1ntal2

左はロックがかかった状態で、緑色の台形の部分は、左右の白い部分に枝には接触していません。白い枝の下には金属の板がありますが、この部分がホルダーの半円の溝にはまっていて、刃を動かそうとすると、動かそうとしている方向の金属板がホルダーの溝に食い込んで動きを抑えるようになります。右はスライダーを刃を出す方向(写真左方向)に押したもので、緑色の部品が左の枝にあたっています。そのため、金属板も浮き上がっていて、刃が出る方向のロックが外れています。

 

カッターナイフの刃先

カッターナイフの刃先というと、先端を示す場合と、刃そのものを指す場合があるようです。ここで、取り上げているのは後者で、カッター刃の刃の付き方を眺めてみたものです。なお、以下の記述は手元にあって在庫の、それも1枚の刃によるもので、それらの刃の購入年月日やロットの記録がありませんので、現在販売されているものと同じである保証はありません。もちろん、それ以前に測定が正しい保証もありません(中には、自己矛盾を抱えている結果もあります。)。また、刃の形状を測定しただけで、どの刃が良いといった評価をするものではありません。もちろん、刃の硬度や靭性の評価は行っていません。

オルファ通常刃

オルファのカッターに付属していた通常の刃(白刃)です。

刃の部分が黒く写っていますが、刃の部分が白くなるように光を当てているためで、見た目の色は白銀の金属光沢です。刃の部分が白いですが、先端部分は黒く写っています。他の刃でも、このように2段になっているものは写真で白く写っている部分を刃先、黒い先端部分を小刃と記すことにします。刃先部分の拡大写真を示します。用いた対物は10倍で、写真の横幅は1.73mmです。刃先部分が水平になるように、刃を11度傾けてあります。

右は小刃の部分が水平になるように15.6度ほど傾けたもので、40倍の対物レンズで撮影したものです。小刃の長さは0.1mm程度です。刃先と比べると小刃の方が傷が少なく滑らかになっています。

 この刃の厚みは公称0.38mmです。刃先と小刃の長さと角度が分かっているので、測定データをもとに厚みを計算すると、0.33mmで、公称値との間にかなり差が出てしまいました。不思議におもって裏面の刃先角度を評価したら、12.3度ありましたが、それでも厚みが不足していて原因は突き止められていません。

 

オルファ黒刃 

続いてオルファの黒刃です。厚みは白刃と同じで0.38mmで刃先の幅が広く、小刃は狭くなっています。

左が刃先が水平になるように傾けた10倍対物レンズによる画像で、この時の角度は7.3度でした。続いて、小刃が水平になるようにした40倍対物の写真です。この時の角度は14.8度です。

 

測定した幅と角度から厚さを求めると、0.37mmとなりました。刃厚の公称値とほぼ一致しているので、測定値は信頼できそうです。白刃と比べて、刃先角度と小刃の角度とも浅くなっています。また、小刃の幅は狭い上に、傷が少なくより細かい砥石で研がれているようです。

 

オルファ特選ロング0.2mm黒刃 

 オルファの特選ロングホルダー用の薄い方の刃です。薄くしなりやすいので、力を入れる作業には適しません。

 刃先角度は白刃より浅いのですが、厚みが薄いので刃先の幅は狭くなっています。

 左が10倍対物による刃先部分で、角度は5.8度。右が40倍対物レンズによる小刃部分で角度は14.4度でした。データから刃の厚みを計算すると、0.21mmで公称の0.2mmとよい一致をしていると思います。

 

NT白刃 

NTの白刃です。刃先が黒く写っていますが、これは上のオルファと別の時に撮影したものでライティングが違うためです。小刃は白く写っていますが、小刃の先端が黒く見えます。小刃が2段になっているようです。

 左は10倍対物で刃先が水平になるように10度ほど傾か田ものです。右は40倍対物で小刃が水平で傾斜は12度です。小刃の部分が2段になっていて、根本より先端部分がより細かく研いであるのがわかります。小刃の先端部分の角度は15.4度でした。厚みの計算値は0.39mmで公称の0.38mmとよい一致をしています。

NT薄黒刃 

 NTの薄葉の黒刃で刃の厚みは公称0.25mmです。こちらも、NT白刃と同様に小刃が2段になっていました。

左は10倍対物。刃先の傾斜は6度。右は40倍対物で、小刃の傾斜は12,2度で、先端部分の2段目は14,6度でした。計算で求めた刃厚は0.24mmで公称値とよく一致しています。

KAI 鋭角黒刃 

KAIの鋭角黒刃で刃厚は0.38mmです。刃先の幅が広いことから、刃先角が小さいことが予想できます。

左は10倍対物で刃先の傾斜は4.8度と他に比べて浅くなっています。右は40倍対物で小刃の傾斜は11.7度でこちらもほかより浅くなっています。小刃の幅はオルファやNTよりも広く、刃先のデザインが異なっている印象です。測定値から求めた刃厚は0.39mmで公称とよく一致していました。

Tajima白刃

タジマのネジSに付属していた白刃です。刃厚は公称0.38mmです。刃は2段研ぎになっているのが分かります。

刃先の傾斜は7度で、小刃部分は15.4度でした。

 

ムラテックKDS片刃

 

 ムラテックKDSの片刃の替え刃です。厚みは公称0.38mmです。折り線は裏面にあり、刃先が見える面には折り線はありません。刃先の傾斜角は18.5度です。両刃のものは、表面と裏面が同じ形状をしているので、刃先角度は上に記した値の倍になりますが、これは片刃なので、18.5度がそのまま刃先角度になります。観察した限りで2段研ぎはされていないようで、小刃は存在していません。また、裏面は特に研ぎはなされていません。

 

 

傾斜角の測定について

傾斜角の測定は、干渉対物を用いて行いました。干渉対物は試料表面からの反射光と対物レンズ内部にある参照面からの光を干渉させることにより試料表面の凹凸に応じた干渉模様が出現します。

写真は10倍の干渉対物像です。中央の線の左側は刃先、右側は平坦な部分です。右側に上下に模様が走っていますが、模様の中で同じ色調の部分は同じ高さにあります。上下に同じ色が伸びているということは、上下方向は沙汰向いていないけれども左右方向は傾きがあることを示しています。そこで、左右方向の調整をしてみたのが次の写真です。

最初の写真に比べると文様の幅が広くなっているので、左右方向の傾きが緩くなったと判断できます。そこで、さらに同じ方向に傾きを調整します。

今度は文様が平坦部分全体に広がっています。10倍対物で、左右の幅は1.7mm程度のはずなので、傾きとしては、1mmあたり数ミクロン程度にはなっているだろうと思います。刃先部分も同様に、傾けていって刃先全体に文様が広がる角度の計測を行っています。


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