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にじ 1947年 第1号 


昭和22年9月25日印刷 昭和22年10月1日発行 定価15円
創刊にあたって 藤田 圭雄(編集人)

★プロメテウスが天上の火をぬすんで来てくれた時から、人間の世界には新しい創造の仕事がはじまった。考えること作り出すことが人類の生活を刻々に向上させて行った。神秘と呼ばれ不思議に感じられている自然のとざされた幕を一枚一枚めくり上げ、すべての物の本当の姿を、この二つの目でしっかりと見とどけるだけではなく、あらゆる精巧な機械の力によってその本質をつかまええ行くのであった。人間が人間であることの誇りも喜びも、それは科学的ないとなみの上に立ってはっきりと考えられることではないだろうか。

★この雑誌は、少年少女諸君に、科学的な知識をあたえるだけの目的でつくられているのではない。単に科学の専門的な知識を求めようとするのならば、それはそれぞれの部門の系統たった深い研究書が沢山にあるだろう。この雑誌でも次号から、そうしたそれぞれの道に進もうと志す人々への、良い道案内の本を紹介して行きたいと思っている。しかしこの雑誌はそれよりももっと幅の広い別の使命を持っている。それは諸君の科学への志諸君の科学の勉強への正しい心がまえと、にごらない瞳の輝きをあたえることである。文学に志す人も、音楽を一生の仕事と考える人も、その人が文化人として、人類の進歩のために少しでも役立とうと考えるならば,知っていなければならぬ事実とその考え方のすじ道をはっきりとしめそうというのがわれわれのこの仕事の根本的な希望であり努力である。

★科学は近よりにくいものでもないし、わからないものでもない。しかし求めようとしなかったり、わかろうと努力しない人のためには全くの他人である。科学的な真理を、やさしく面白く解説する−ということがよく言われる。しかしそんなことは出来ることではない。ルールを知らないで野球を見ているようなもので、いつまでたっても本当の面白さもたのしさもわいては来ない。まず諸君はルールを覚える努力をすべきである。ルールをしっかりと覚え込めば、それから先のたのしみは無限に広い。この雑誌は諸君にはむずかしく感じられるかもしれない。しかしこれは科学への道に入って行くためのルールである。日本を代表する世界的にも立派な科学者の方々が、誰にでもよくわかる言葉で諸君に話しかけている。しかし決して面白おかしくしようとしたり、むずかしい点をぼやかしたりはしていない。

★まちがった政治のおかげでどん底に沈み込んだこの国を美しく輝かしい国にもり上げて行かなくてはならぬ諸君は、科学的な正しさで常に澄み切った頭をしていなくてはいけない。この雑誌は科学ずきの少年少女諸君だけのものではない。あらゆる分野に進んで行こうと志す、すべての人々の毎月毎月の良い友だちでありたいと思う。

★少年少女諸君に喜びとたのしさを贈り、豊かな明るい心をやしなう雑誌「赤とんぼ」とともにあわせて読んでほしい。政治家が政治のことだけより知らなかったり、文学者が文学以外に無関心だったり、世の中のことを何にも知らない科学者を大学者のように思ってありがたがったり、そういう片輪の人間が出来るところに国の不幸が生まれる。

★「赤とんぼ」と同様、この雑誌も諸君の雑誌だ。希望があったら遠慮なくどしどしと言ってほしい。諸君のまじめな研究のためにはいくらでも頁をさこう。そして諸君と共にこの雑誌を育てて行きたい。



創刊号には以下の記事が掲載されている
虹…………………………… 中谷 宇吉郎
虹が描かれているミレースの絵画の話から始まる虹についての解説。何はさておき、本文をみていいただきたい。著者は雪の研究で有名な科学者で、寺田寅彦の弟子で、科学エッセイの名手でもある。執筆時は北大教授。
円形のいろいろろ…………… 矢野 健太郎
目次では「圓形」、本文では円形と表記されているが、実はいずれも間違いで、図形のいろいろというのが正しい表題で、2号で訂正がなされている。この号では図形を構成する要素である線や面についての話が展開されている。著者の矢野健太郎は数学者。数学啓蒙書も数多く残している。
宇宙の釣り合い…………… 鈴木 敬信
子供と叔父さんの問答形式の読み物。宇宙が時間とともに変化しているのか定常的なものなのかについての話がなされている。著者の鈴木は天文学者で海軍水路部技師を経て、東京学芸大学の教授を務めていた。フレッド・ホイルの著作の和訳なども行っている。
おもちゃの材料に空カンを… 山村 弘
空き缶から平なブリキ板を作る工作記事。
時速3000キロ……………… 葉山 俊
時速3000キロでの移動を可能にするロケット技術についての解説。
5分でできるカンズメボイラー…………… 大窪 護
ビール缶(現在とは形状が異なっている)を用いてボイラーを作製する工作記事。
以下は目次には掲載されていない読み物。
知恵の泉
表紙裏にあるクイズ。つり合いの取れた水槽内部で船の模型が移動した場合につり合いが崩れるかと、氷に扇風機で風を当てたら氷の溶け方がどうなるかの2問が掲載されている。解答と解説は裏表紙裏にある。
原稿募集
表紙裏に読者の原稿募集の囲み記事がある。「諸君の科学的な研究や観察や記録を募集する。長さや形式はすべて自由。学年と学校名と指導してくださった先生があったらその名前を記して、<にじ>編集部に送ってください。」
目次頁上の写真
写真解説は29頁(時速300キロ最終頁)に囲み記事である。写真はたくさんの昆虫が写ったもので、昆虫に関する簡単な紹介がなされている。
表紙イラストの解説
宇宙の釣り合いの最後の頁の2/3ほどで「空に浮かぶ大反射鏡」という表題の表紙解説がある。第2次世界大戦中にドイツで考案されたもので、ロケットで部品を運び、地上8000kmに直径1500mの凹面反射鏡を構築して、太陽光を地表上に集光して集光場所を焼き払うという兵器。解説では、8000km上空の凹面鏡では地表の太陽像は直径60kmになるので、焼き払うのは困難であろうとしている。
裏表紙
植生の緯度と高度による変化を示した図で13頁に囲みの解説がある。
創刊の言葉
裏表紙裏。
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